４月のこと。５年生のある男子児童は，困った顔をしてずっと手元の紙を見ながら考え込んでいました。
課題は，「自分のいいところを書こう！」です。１０分経っても，
１５分経ってもその用紙は白紙のままでした。その時間の最後に彼は書きました。
「物を大切にすること。」結局２０分間で彼の書いたことはわずかに一つだけでした。そして，感想を書く付箋に，「あまり見つからなくて残念でした。」と書いていました。
私は，「今見つからなくても心配しなくていいよ。また３学期にも書くからね。」
と言いました。その後，宝物ファイルに自分ががんばったことや宝物，
友達や家族や教師からの言葉などを入れていき，２月にもう一度「自分のいいところ」について書くと・・・。彼はなんと２４個も書くことができるようになりました。内容は，次のようなものでした。
・字がうまい　・いつも元気　・足が速い　・やさしい　・算数が得意　・物事を最後までやりとげる
・真面目　・努力する　・親切　・素直　・面倒見がいい　・調子に乗ると周りの人にいい感じを与える
・マラソン大会をがんばった等々。感想を書いた付箋には，「四月の時は，全然見つからなくて自分のいいところは少ないと思っていた。
でも，今の段階だといいところがいっぱいあると分かりました」と書いてありました。この子はどんな子だったかと言うと・・・。例えば算数の授業中に私が，
「今から２番の問題をノートに書きましょう。」
という指示を出すと，必ず私のところにやって来て聞くのだ。
「先生，２番ですよね？ノートに書くんですよね？」
「そうですよ。」
そう言うと，安心して自分の席に戻る。一日に何度もそんなことがありまし。
その彼が，友達同士いいところを書き合った時，「走るのがけっこう速い。」と書いてもらいました
（けっこうというのは，クラスでだいたい５～６番手だったからです）。

すると，彼は，当時２時間目の大休みの時間に行われていた，
「５分間走」を誰よりもがんばりだしました。７月の午前１０時３０分頃というとものすごく暑くて，
気温が３０度を超えることも珍しくないのですが，汗をだらだら流しながらがんばって走っていました。
そして，６年生秋の連合体育大会では，持久走の選手に選ばれました。
練習も一切手を抜かずに頑張った彼は，本番の大会で見事１位になりました。
また，同じく秋の校内体育大会では，黄組の団長に自ら立候補して，立派にやり遂げました。
学校生活でも何事に対しても積極的になり，指示を聞いても私のところに確認しに来ることは無くなりました。

卒業を前に家族に彼の成長したところを書いてもらった時，
おばあちゃんがこんなふうに書いてくださいました。
「この子は，小学校に入って毎日泣いてばかりおりました。
こんな神経の細い子が６年間もつのだろうかとおばばは心配しておりました。
でも，６年生になった今では，『おばば，肩痛いんやったら僕がたたいてやるわ。』と言って，
このおばばの体調を気遣ってくれるほど成長しました。この成長が何よりうれしいです。」
私も，とてもうれしかったです。自分に自信がつくと，
人は爆発的に伸びる。このことを私は彼から教えてもらいました。