【創始者の岩堀の話】
福井県越前市岡本小学校五年西組を担任していた時のことです。教師になって17年目を迎えていました。
その私に担任した子どもたちが教えてくれたのは、
「どの子にも必ずいいところがある!」
ということでしたたとえば、勉強の方はそれほど得意じゃなくても、気持ちが優しい子がいます。友達が熱を出して早退するために保健室に行くってなったら、
「先生、誰々ちゃんの荷物とランドセル一緒に持っていてあげていいですか」
って聞いてくれて、そしてもうサッと持って行ってくれる子。給食のおかずわけの時に「ガッシャーンッ」ってお味噌汁の入った器をひっくり返した子がいて、
その子に「大丈夫? 熱くなかったか?」って聞きながら
「一緒に拭いてやるわ」と言って黙って拭いてあげている、
気持ちの優しい子。そういう子どもたちをたくさん見てきました。
その子たちが中学校に行くときに私が一番願ってきたことがあります。それは、「もしもあなたの成績が悪かったとしても、
それは学力という一本の物差しであなたをはかっただけのことなので、
あなたにはそれには測りきれない素晴らしいところ、優しさや思いやりや勇気ややる気、
そういうものがいっぱいあるから、どうぞそれを自分で認めて、ずっと自分のことを大好きでいてほしい」
ということです。そんな私が、宝物ファイルの実践を始めるきっかけとなったパーソナルポートフォリオとの出会いは、
思いもかけないところからやってきました。2000年から理科や社会の時間が削られて
「総合的な学習の時間」が段階的に導入され始めました。当時は、一週間に三時間ありました。
新しい教科の「総合的な時間の進め方をどうするか」
「その評価をどうするか」などと現場は模索していました。
「総合的な学習の時間について勉強したい。」
「その評価法であるポートフォリオについても勉強したい。」
そう思った私は、鈴木敏恵先生のホームページを見て、そこで売られていたビデオと本を全巻注文しました。
しばらくして送られてきたものを読み始め
「ポートフォリオで評価革命」と書かれた本のあるページに私の目はくぎ付けになりました。
『自分の「パーソナルポートフォリオ」を作ってみることは、
この世にたった一人しかいない「自分という存在」を認め、大切にすることに通じる。…中略
「自分の大切なモノ」を入れればいい。母からの手紙、美しく心に染みた紅葉、
熱心に練習して得た算盤二級の小さな賞状・・・』
本を持っていた左手から全身にビリビリと電流が走りました。
まるで何かに感電したかのように。クリアファイルの中に色々なものを入れて
うれしそうにしている子どもたちの笑顔が脳裏に浮かびました。
「これだ!これを使えば長年願ってきたことが叶えられる。
子どもたちが学力だけではない自分の良いところに気づいて
ずっと自分のことを好きでいることが形として残せる!」
この時のことは,今でも鮮明に覚えています。左側のページでした。たった1ページほどでした。
何度も読み返しました。読み返すたびにワクワクしました。楽しいだろうな。子どもたちどんな顔するかな。
喜ぶだろうな。興奮しすぎて夜中も眠れないほどでした。当時担任は5年生。2学期も半ばを過ぎていました。
すぐにクリアファイルを探し始めました。
ピッタリのタイミングで福井県にも百円ショップがオープンしたのです。
A4クリアファイルが100円ちょっとで手に入ったことは本当にありがたいことでした。
まずはそのページだけが頼りでした。あとは自分で、試行錯誤しながら少しずつ改良を加えた独自の方法で
16年間実践を続けてきました。途中で呼び方も変えました。それは、評価ではないこと、
子どもたちが一度で覚えられるネーミングにしたいこと、
クリアファイルに好きな物を入れていく以外は岩堀独自のメソッドであること等が理由です。
大人版宝物ファイル誕生秘話
講演会でも話をさせていただいていますが、
この手法の驚く効果を目の当たりにしてこれを世の中に広めたいと思いました。
出版社に原稿を送りましたが全部断られましたので自費で出版しました。風向きが変わり始めたのは、2005年~2006年頃からです。
NHKのドキュメンタリー番組やEテレの子育て番組で取り上げられるようになりました。
自主研修会を開き始めました。講演会にも呼ばれるようになると、
「これは大人にも役立ちますね。」と言ってくださる方が増えてきました。そして、今の大人版宝物ファイル講座のセッションの原型ができたのは、
2013年4月から二年間四期に渡った福井県カウンセリング協会で行ってきた講座です。
講座の講師を頼まれたとき、「えっ、私でいいのですか?」とお聞きしましたが、
「カウンセラーの方々にも自己肯定感を高めてもらいたいのです。」
と言っていただき、何事も経験だと思いお引き受けすることにしました。
前期・後期に分かれていて、それぞれ12回ずつありました。「今回はこれまでと違ってたっぷりと時間がある。
効果的だと思いながら時間がなくてあきらめていたことをぜひ新しいセッションとして行ってみよう。」
そう考えて自分の生きてきた軌跡を振り返ったり、両親について考えたりするセッションを実践し始めました。
これが大人版宝物ファイル講座の原型となりました。
さらに脳科学や心理学を学び宝物ファイルを検証する
「この効果を科学的に証明して英語で論文にして世界に向けて発表しよう。そのために大学院を受験しよう。」
と思い立ちました。受験したのは、
「大阪大学大学院大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科後期博士課程」
という長~い名前の大学院です。54歳での試験勉強はかなり大変でした。中でも英語は苦手な教科。三十年以上も英語の勉強から離れていた私の英語力は驚くほど退化していました。
「えっと、ここはisだったっけ?それともdoesだったっけ?」
といったレベル。個人レッスンをお願いした先生にはあきれ果てられながらも勉強し続けました。
休みの日には13時間以上かけて勉強しました。
そうやって必死で勉強した結果、無事合格させていただきました。受験の時も合格した当初も教師をしながら通おうと思っていました。しかし、
「他の同僚に迷惑がかかる・・・」
ひと月以上考えて退職すると決めました。とはいえ、三十一年間勤めた教職を辞めることは、大きな決断でした。
子どもたちとの別れはとても辛かったです。「決断」と言うのは
正に「決めて」「断つ」ということだとしみじみ思いました。でも、
「私たちもがんばるので、岩堀先生もがんばってください。」
とのメッセージをもらい、涙がぼろぼろ流れました。仕事を辞めたことへの寂しさはありましたが、
「せっかく入学したのだから、自分が学びたい科目を全て学ぼう」
と思いました。この大学院は五つの大学が連合していますので、授業はオムニバス形式です。
90分15回の授業を五つの大学の数人の先生方が担当されていました。
臨床の現場で患者さんと向き合いながら研究を続け、日本のみならず世界的にも
有名な研究をされている先生方の講義は、脳科学や精神医学、
発達学等の最新の研究の成果を教えていただけるものでした。そのような価値ある授業を受講し、
知識を増やす一方で、私は二つのことをいつも念頭において学んでいました。
・自己肯定感は人の心の健康にとって本当に大切な要素なのか
・大人版宝物ファイルは間違った方向ではなく正しい方向へ進んでいるか
ありがたいことに、答えは、両方ともyesでした。
学んだことをもとに、大人版宝物ファイルの原型に新しいセッションを付け加えました。
「よしっ!大人版宝物ファイルはこれでいこう!」
こうして、大人版「宝物ファイルベーシック講座」が誕生しました。
大人版宝物ファイルベーシック講座の最初のお客様は
奈良県の「シバ・サンホーム」というとてもステキな
工務店様でしたhttp://www.shibasun.jp/