ガラガラッと教室のドアを開けるなり，あるお母さんが深々とお礼をされました。
保護者会の個人懇談の時のことです。私は，何をそんなに感謝されているのか身に覚えはありません。「えっ，どうされましたか？」
と言うと，そのお母さんは，中へ入ってきてその理由を話してくださいました。
「私の娘が，『お母さん，私のいいとこ書いて。』と言って便箋を持ってきました。
私，即答でこう言ったんです。『あんたのいいとこ？一個も無いわ。』って。
すると，『わたしのいいとこ一個も無いの？』と言って，うちの娘が大泣きしたんです。」
私は，作りかけたばかりの宝物ファイルを手渡し，
「持って帰って，うちの人にも見てもらってね。」と子どもたちに伝えてありました。お母さんは，その娘さんの持って帰ったものを見てくださったのです。
その中には，クラスの友達全員からもらったその子のいいところを書いた付箋が入っていました。
「うちでは，わがままで気ままで，何でも自分の思うようにならないと気が済まない子だと思っていました。
二人のお姉ちゃんと自分を比べてすぐにすねてごねて・・・。いいとこなんて一個も無いと。
でも，クラスの友達は，「明るい」「元気がいい」
「笑顔がいい」「やさしい」など色々と書いてくれていました。
それを読んだ時，親としてこれではいけないと思ったんです。それで，家族会議を開きました。夕食が終わったテーブルで，おじいちゃん，おばあちゃん，お父さん，二人のお姉ちゃんと私の六人で，
『あの子のいいところはどこだろう・・・。』と話し合い，手分けして書かせていただきました。
いい機会を与えていただいて，ありがとうございました！」「そうですか。そんなことがあったんですか。」
私もとてもうれしい気持ちになりました。その後，その子が６年生になり，
私は持ち上がりで担任をさせていただくことになった。

５月の家庭訪問で宝物ファイルの話が出た時のことです。
「そう言えば！！」そのお母さんが叫びました。
「そう言えば，どうされたんですか？」
「先生，そう言えば，家族があの子のいいところを書いてからピタッと反抗することが無くなりました！」
「本当ですか？」
「そうです。以前は，そんなことにこだわらなくてもいいのにと思うことにこだわり，
姉たちと自分を比べては食って掛ってきたんです。それがピタッと無くなりました。」
「そうなんですか。みんなから認められて，もう自分とお姉ちゃんたちを
比べる必要が無くなって気持ちが落ち着いたんでしょうか。」
「そうだと思います。ありがとうございました。」

とてもうれしい出来事でした。ただ，その時はそんなことが偶然起きてきたのだと思っていました。
でも，今なら分かります。あの子は，家族のみんなにいいところを書いてもらって認められたことで，
家での自分の心の居場所ができたんだなぁと。人は，自分の居場所ができると
気持ちも落ち着いて尖った態度をしなくてもよくなるのです。
家族からの言葉はとても効果があります。
宝物ファイルのいいところは，それが消えてしまわないで，ずっと残ることです。